紫水晶の森のメイミールアン
「メイミールアン殿、私はその者の上官に当たる者だが、見たところ余り良い境遇には思えません。宜しければ、今から後宮の良い部屋へお移りになりませんか?侍女も付けさせましょう」

 その言葉を聞いた途端、元大国の王女である彼女が、物凄く困ったような困惑の表情を浮かべたので、エメリオス王は何とも腑に落ちない気持ちになった。

「せっかくのご厚意、私のような末の者に目をかけて頂き、お気持ちには大変感謝致しますが、今の生活に不便や不満は全く感じておりません。お気持ちだけ十分ですので、もう私の事はお気にされませぬようにとお伝え下さいませ」

 なんと!この様な生活で構わぬと申すのか?
 自分の情けに歓喜して喜ぶものだと思っていたエメリオス王は、丁重に辞退されて納得の行かないモヤモヤした気持ちに満たされた。今まで放置されて、自棄になって意地になっているのだろうか?でも、その様にも見えない。何故なのだ?

「何か望む者や欲しい者は、貴女にはないのですか?」

「たった一つだけなら……」

 王である自分の情けを突き放され、自尊心を傷つけられたが、この憐れな王女にも望むものがあった……。エメリオス王は、少しホッとした気持ちになった。

「それはなんでしょうか?」

「もし…もし…許して頂けるのなら、廃妃をお願いしたく」
 
 戸惑いながらも、真っ直ぐと向けられたこの国にはない淡い紫色の澄んだ目で、エメリオス王を見つめ、この哀れな王女は思いもかけない衝撃の言葉を発した。

『なんと!!廃妃だと?!』

胸を射ぬかれたような衝撃が走ったが、それは、意外な事を言われたからではなかった。このアメジストのような淡い紫色の目……。前に見た事がある!!ずっと…ずっと…捜していた…。

《第1章 第3話に続く》
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