わたしの小指にみえるもの
「ないない」


私の前で手を振るの希夏は「なんで!?」と
大声で驚く私に、


「だって、普通に考えて塚野先輩が結愛の運命の人な訳ないじゃん」

と平然と答えた。
塚野翔、私のひとつ上の高3。
そして、私の彼氏。
私たちの学年でまあ人気の方。


本人の前でズバッと言うのやめてよ…。
私は小さくため息をついた。


「え?」


騒がしい下駄箱。
だから聞き間違えしたかもしれない。
でも聞き間違えしてなくて ━━━━━━


「今日、居残りだから…また今度な」


翔くんはそう言うと友達に呼ばれ行ってしまった。
…少し残念。いや、かなり残念。
だって今日は、この前途中で終わってしまったデートの代わりだったから。


『また今度』っていつ?
これで何回目?
断るたび『また今度』と言って。
今日も、この前のデートも、すっごく楽しみにしてたのに━━━━━━━━━


「もうやめよう」


翔くんを責めるのは。
だって今日は居残りって言ってたから。
しょうがないよね。
またいつか一緒に帰ろう。


靴をはきかえて、校舎からでると冷たい風が吹いてきて。


「寒い…」


風のせいもあるけど、違う。
一番の原因は、彼がいないから。
心が、寒い。
本当だったら二人で帰っていた帰り道。
それを一人で歩き、時々吹いてくる風に、「冷たい」と呟きながら家に帰った。


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