コンプレックスな関係


数度の呼び出し音の後、電話は繋がった。


『もしもし?』


電話に出たのは、貴弥じゃなかった。


『もしもーし?どなたー?』


ちょっと高めの、可愛い声。


美和ちゃんのものでもない。

『ちょっとぉー?イタ電?』


電話の向こうからは、訝しむ女の声。


そして。


ーーおまえなー。勝手に電話出るなよ。


貴弥の声がした。


ーーえー?貴弥がのんびりシャワー浴びてるからでしょー?


なんてタイミングだ。


私は自分の間の悪さを呪う。


言葉が出てこない。


『莉生?どーしたんだよ?何か急用?』


どうやら貴弥に変わったらしい。


『莉生?聞こえてる?』


駄目だ。


泣きそう。


私は無言で電話を切った。


他の女と遊んでるのなんて、ずっと前からわかってることなのに。


話を聞いてるだけなら、まだ耐えられるし、笑える。


けど、その現場を想像できてしまう今の電話は。


それがどういうことなのか。


現実を突き付けられた。


「辛い、な…」


結局のところ、私が選べる道は二つ。


この状況をひたすら耐え続けるか、別れるか。


……前者しか、今の私は選べない。



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