緋~隠された恋情
戻りにくくなってしまったにとって、

この人の登場は渡りに船だった。

「大歓迎です。

 こちらへどうぞ。」


この太陽みたいな人と共にスナックへと戻ると、

案の定、ワッと歓声が上がった。

「鮎川さん!遅いですよ。」

下宿人のひとり山根さん。

早く出かけて遅く帰る山根さんとは、ほとんど話したことがなかったけど

確か輸入食品の取り扱う会社に勤務しているとか?

じゃあ、同僚というのは山根さんなんだ。


すぐに溶け込んでいく彼女

思いがけない来客にみんな沸き上がっていた。


私の知らないところでこの人は、

商店街みんなと知り合いみたいだった。


「鮎川さん。」



聞いたことのないお兄ちゃんの声色に

びりりと電気が走った気がした。


お酒が入っているせいかもしれないけど、

お兄ちゃんの頬は紅潮していた。


「お怪我されたそうで、驚きました。

 もう大丈夫ですか?」


「は、はい。わざわざありがとうございます。」


にっこりとかえした彼女の笑顔に、

嬉しそうに答えるお兄ちゃんのはにかんだ笑顔。


判かってしまった。


お兄ちゃんはこの人に特別な感情を持っている。


恋してるんだ。



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