緋~隠された恋情
「確かに今の状態は俺だって楽だよ?

 恋人って関係で、

 時間ができれば時間いっぱいお前を独り占めにして。

 事実婚っていうんだろそういうの。

 けど、

 俺たちは兄妹でいた時間が長すぎて、

 人から見たら相変わらず兄妹だ。

 それって、

 やっぱ駄目だと思うんだ。

 それに……

 本当の家族が欲しい、

 そう思っちゃダメかな?

 誰に聞かれても、

 俺はありさを、妻ですって、

 人生の伴侶ですって紹介したいんだ。」


そんな風に真剣に考えていてくれたってことが、


心からうれしかった。

私はうなずく代わりかめられた指に力を入れた。



「それとさ、

 ウエディングドレスのありさが見たい。」




そう言って、照れ臭そうに笑う新ちゃん。

ウエディングドレス。


私だって女だ、あこがれてなかったわけがない。

でも、新ちゃんのそばにいるって決めた時から、

それは無理なんだってあきらめてた。


普通でない私たちに普通の女の子の夢なんて、

叶うはずないんだって、

純白のウエディングドレスなんて、

私が着てはいけないんじゃないかって、

そう思ってたんだ。

「嫌なのか?」


言葉をなくしていた私に、

困ったように見つめる新ちゃんに、

あわてて

「うれしい。」

とだけ返した。


「うん」


駅名を告げるアナウンスが響き、

ここが、電車の中なのだと

我に返った。


「降りるぞ」

先に立ってからめたままの手書くくひかれ私も立ち上がった。

最終電車、数人しかない社内の中、

まるで夢の中なんじゃない勝手気持ちで、

手を引かれて歩く。


ああ、夢なら覚めないでほしい。










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