緋~隠された恋情
そして、

小動物のようにビクビク怯えるあたしを、

まるでなんにもなかったように、

家に送り、

家庭教師の役割を続けた。


あれは冗談だったんだ。

そう何度も頭の中で反復して、

でもその度に

あの時の冷たい目が頭をよぎり

体中の血が凍りそうになった感覚を思い出す。


私は高校に入学して、

平は家庭教師をやめた。



「しばらく海外に行く。」


そう言い残し、

平は姿を消した。


何もなかったことにホッとしながらも、

あの冷たい言葉と瞳はあたしの心を

時々不安にさせていた。


あいつはきっと帰ってくる。

そしてあの冷たい目であたしを見るだろう。

お兄ちゃんへの気持ちは誰にも知られたくない。

なくしたくない。


『君の想いを知ったら、側にいてくれなくなる』

近くにいなくても、あの日かけられた暗示は、

私の心を縛るのには十分だった。






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