碧色
やっぱ晴れの日は清々しいなあ。


『お!晴!おはよーう!今日早くね?』

「おー!和生(かずき)!おはよ!」



久我和生(くが かずき)。高校に入って一番に仲良くなった。
こいつの家は父さんがいなくて母さんと姉ちゃんと3人暮らし。
家も近いからちょいちょいご飯食べにきたりしてる。
まぁ、秘密も守ってくれるいいやつだ。



『あれ?お前今日日直とかあったっけ?』

「んぁ?あー、ないよ。晴れてるからさ。
ちょっと日向ぼっこしてから行くんだ♪」

『あー、なるほどな。遅刻すんなよー。今日服装検査だからなー!』

「うっわ!忘れてた!サイアク…。まっ、いーや。
遅れたらさ、なんか適当に腹痛いつってたとかって言っといてな!」

『あいよー。んじゃ、あとでなー。』




俺の家と学校の間には小さい公園がある。
ま、公園といっても遊具もない原っぱだけど。
晴れた日は少しここで日向ぼっこする。
目の前は海だし。
すっげぇ気持ちいいからお気に入りの場所だな。




あれ…人がいる。珍しいな。





いつもは誰もいないベンチに
制服を着た女の人が座ってた。
俺は珍しいなーと思いながらもさほど気にせず原っぱに横になった。



「んあ~………ふぅっ………………。」


目を閉じる。
風が髪を撫でる。穏やかな波の音が耳をくすぐる。
青々とした草の香り。
柔らかな甘い香り。…?甘い香り……………?



目を開ける…
そこには少女の青い瞳…



「!!!!!?」



「うおっ!!!!」

驚いて起きあがる。
少女が俺を見ていた。

「な…なんですか…?」

『…………』


彼女は俯いてなにも話さない。


「あ…あのぉー………」

『…………』




なんだこの人。




俺は場所を変えようと立ち上がる。



少女が俺のブレザーの裾を掴んだ。



「!?」


『あ……』

「?」

『あ………の…。あ……お……。あお……い。』



彼女は空を指差していた。



「ん。あぁ、いい天気ですね」



彼女は俺を見て微笑んだ。



「あの…高校生ですか?」

『……あ……あおい…。』

「いや、そうじゃなく、天気はわかりました…えと…」

『あお…い…。』


彼女は自分を指差す。


『わ…たし……あお…い。』

「…あ、あぁ!名前ね!あおいさん。あ、俺は晴。石川、晴!」


彼女がまた微笑む。



外国人なのかな…?



「あの…もしかして…外国の方ですか?」

『……い…イギリス…。にほん…きた。』

「あー!なるほど。イギリスから…。」

『……』

「あの…僕になんか用でしたか…?」

『………………』


彼女はまた俯いてしまった。


『あ……。』

「ん?」

『わ…たし…ことば………はなす…したい……』

「……………言葉?……えと…
日本語を話せるようになりたいってことかな?」



彼女が不安げに頷く。



『あ…なた……あお…いひ……いつも…ここいる。』

「あー、うん。晴れてる日はさ、日向ぼっこしてるんだ。」

『あおいひ……ここ………くる。ことば…しりたい…。』



困ったな…。どうすればいいんだろ。



彼女は今にも泣き出しそうだ。




「あー、わかった。えと…それじゃあ、晴れた日、俺、ここ、くる。
あなたに、日本語、教える。」



彼女は意味がわかったのかにっこり笑った。




あ、やべ。遅刻じゃん。




「それじゃあ、俺、学校行かなきゃだからまた今度晴れた日に!」



俺は逃げるように学校へ向かった。
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