学園怪談2 ~10年後の再会~
「こ、これが……井上孔明の魂」
 私にはわかった。もう曖昧だった彼の存在ははっきりと目の前に出来上がっていた。肉体さえあれば、いつでも復活できる魂が私たちにキバを剥いているのだ。
「シャアアアア!」
 そして、その煙は凄いスピードで用務員室を出て行った。
「追いかけろ! 君の持っているロザリオを恐れて孔明は逃げ出した! 必ず奴は復活目前の自分の肉体に戻るはずだ。追いかけて肉体を見つけてくれ! そして、そしてこの悪夢を終わらせてくれ!」
「は、は、はいい!」
 その叫びにも似た慟哭に私は頷いた。用務員さんの介抱を島尾さんに任せて、私は井上孔明の魂を追いかけた。絶対に見失ってなるものか、私の右手には中くらいのロザリオが握りしめられていた。
 ……ダダダダダダ!
 廊下を走り続ける私を、様々な怪奇現象が襲った。浮遊するバケツや窓に張り付く血まみれの女性の顔。トイレのドアからは何本もの腕が手招きをして、非常灯はストロボのように明滅を繰り返す。
 怖い! 怖い! 怖い!
 私は張り裂けそうになる心臓を抑えながらも、全力で走り続ける。今、私の足を動かしているのは恐怖心と使命感だけだった。
 ダダダダダ!
 バタバタバタ!
 私の後ろから複数の足音が聞こえる。その数は多く、この異常な状況において、とても私を支えてくれる温かな感覚を感じさせる。
「そっちに、何かあるんだな」
「大丈夫! 私たちが付いてるから、そのまま走って!」
 もちろん、後ろから追いかけてくれているのは能勢さんや斎条さん達だ。その手にはロザリオや赤い本が握られていた。
 校舎の至る所で怪奇現象は起こり続けていたが、私は安心して井上孔明を追った。

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