学園怪談2 ~10年後の再会~
「は、はい?」
 私は間抜けな言葉を出しつつ、呆然と目の前の光景を見つめた。
「井上孔明さん。あなたは私の父なんです! 覚えていますか? あなたの学園時代のクラスメイトを、長谷川結衣子の事を……」
 学園長の言葉に、消滅間近だった孔明の目が開いた。
「……結……衣……子」
 孔明は、苦しそうに……だが、はっきりと名を呼んだ。
「そう! 私の母親です! あなたが死ぬ直前、一度だけ愛を交わしたクラスメイトの長谷川結衣子。そして、その一度で母に宿った命……それが私です」
 突然の告白に一同は度肝を抜かれた。
「え! え! ええええ! 井上孔明と学園長が親子! しかも孔明が父?」
 紫乃さんは口を抑え、二人のやり取りを見つめる。
 徹さんが驚いている事を見ると、彼もその事実を告げられていなかったようだ。
 学園長はそのままガラスケースの前に歩み寄ると。愛おしそうな顔で孔明に話しかける。
「……ずっと、会いたかった。私が生まれる前にあなたは行方不明になってしまい、世間では死んだとされていました。でも母は、結衣子はあなたの話を直に聞かされていました。だから、あなたは再び生き還る。この学園内のどこかで、きっと会えると信じて、待っていました」
 普通に考えれば母と息子くらいの年齢だが、全くの逆。20歳そこそこの孔明が50歳近くの大人の女性の父親。
その事実に一同は呆気にとられ、黙って二人のやりとりを見守った。
「俺の……娘。結衣……子……は」
 孔明は苦しそうに質問を投げかける。
「……死にました。母は死ぬ間際、言ってました。『先にあの世であの人を待つわ』と。お父さん、あなたは決して一人ではないわ! あなたの命は終わっても、その魂が現世から消滅しても、あなたの命は私の中で受け継がれてる。それに、私にも家族がいます。旦那も、子供も。来年には孫だって生まれる予定なんです。あなたのひ孫ですよ!」
 隣を見ると、紫乃さんが自分のお腹をさすりながら涙を流していた。
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