学園怪談2 ~10年後の再会~
……受け継がれる命。紫乃さんも他人事とは思えないのかもしれない。
「……俺の……家族……」
 孔明の目に光るものが見えた気がした。
「お父さん、人の命は短い。でも次の世代、また次の世代へと受け継がれるから価値があるんです。尊いんです。だから、もう成仏して下さい。先に待ってる母の元に……結衣子のところへ行ってあげて下さい」
 涙ながらに学園長は孔明に言葉を放った。
「俺たちも先輩の事は忘れません。この学園に通う全ての人が先輩達の作った歴史を通り、大人になるんです。みんなの心の中に、名前や顔は知らなくても、同じ新座学園の生徒としての家族の気持ちは生き続けるんです」
 能勢さんの言葉に、紫乃さんが、大ちゃんさんが、徹さんが、淳さんが、赤羽先生が、そして私が……彼の成仏を心から願った。
 
……パアアアアア!

 暗い倉庫内に光がさした。
 昼間のように眩い光の中、孔明の肉体は暖かな空気に触れて霞がかった。
「……さようなら、お父さん。母によろしく」
 そして、数秒の出来事の後、再び真っ暗な倉庫へと戻っていた。
「……いったか?」
「……うん、成仏したみたい」
 徹さんの問いかけに淳さんが答えた。
 目の前のガラスケースは無くなり、そこは剥き出しのコンクリートの壁だけが残された。
 ……全てが終わった。
 全員で体育館内へと戻ってきた。
 そこには何もない普通すぎる程に普通の体育館の光景が広がっていた。人魂もいない、ポルターガイストもラップ音もない。本当に普通の体育館。
 いや、本当ならこれが普通の筈なのだ。今まで私たちが体験してきた事が異常すぎたのだ。ひどく平穏が懐かしい。
 ……でも、私の心の中は1日、いや10年の間に体験した恐怖の数々が葛藤していた。そして、それと同時に井上孔明の歴史が終わりを告げた事による達成感で充実していた。
 ガラッ。
 体育館の重いドアを大ちゃんさんが明けた。
 サアアア。
 朝の光が体育館内に差し込んだ。
「あ、朝が来た」
 静けさを取り戻した学園に、いつもとかわらない一日が訪れた。

 ……そして、これからも毎日。平穏な朝は訪れる……きっと。

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