愛を知る日まで



きっと雉さんは俺のそんな気持ちを見抜いてたのかも知れない。


「じゃあ交換条件はどうかしら?柊くんがボランティアに来てくれるなら、私は貴方の独り暮らしの保証人になってあげるわ。ついでに敷き金礼金無しのアパートを紹介してあげる。」


その提案に俺はガバッと顔を上げた。


「本当?」


「本当、本当。」


それは、俺にとってとても有り難い話だった。高校卒業後に施設を出るつもりでいたものの、正直問題は山積みだった。


定期的で堅実な収入の宛てが無ければアパートは借りられない。それにバイトで貯めた金が少しはあったけど、敷き金や礼金、それに最低限の生活用品を揃えることを考えるとかなり厳しいものになる。


そういう現状から、施設を出た多くの若者は住み込みで働く所を選んだり、あるいはグループホームみたいな所を活用していた。


けど、他人と住むのはもうウンザリだと思っていた俺は頑なにその選択肢を拒んだ。


この施設の職員とあまり折り合いの良くない俺は頼れる人もおらず、正直、一人で頭を悩ませていた。


「私の親戚が管理人をやってるアパートがあるのよ。そこで良ければなんとかしてあげるわ。」


だから、雉さんの出した条件はまさに渡りに船で俺はにべもなく頭を縦に振った。


そんな俺を見てクスリと笑った雉さんは、右手の指を二本立てて目の前にかざした。


「その代わり条件は二つよ。一つは、バイトでいいから卒業までに定期収入を見つけること。いくら親戚のアパートとは言え家賃滞納までは面倒見られないからね。

もう一つはさっき言ったボランティアの話。バイトの合間でいいから必ず週に一回以上は来ること。いい?」


どちらもそう難しい話では無いと思えた俺はその条件を快諾した。雉さんはニコニコしながら


「良かったわ。ぬくもり園は男手が足りないから柊くんが来てくれたらみんな喜ぶわぁ。」


と言ったけど、今考えれば俺に居場所を作ってあげようと云う雉さんの優しさだったんだよな。


まぁ、この頃の俺はまだ自分の事だけで手一杯でそんな事にも気がつかなかったけど。




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