愛を知る日まで
雉さんのおかげで独り暮らしの準備は着々と進んだ。
紹介されたアパートを見に行き管理人に挨拶にも行った。限りある貯金で最低限の家具と生活用品を揃え、アパートの近くで時給も良く長期的に出来そうなバイトも見付けた。
そして、高校を卒業した俺は雉さんの出した条件に従ってぬくもり園へボランティアに行くようになった。
ぬくもり園は児童養護施設とそこにいる子供達を補助する目的で作られたNPOの施設で、養護施設に行く前の子供の一時預かりが主な仕事だった。
他にも夏祭りやクリスマス会を開いて近隣の養護施設の子供達を招待したり、雉さんやベテランの人なんかは講演会や啓蒙活動を行って養護施設に対する社会への理解を呼び掛けていた。
そんな中で俺に与えられた仕事と言えば、主に子供の相手と力仕事なんかの雑用だった。
正直、子供の相手は楽だった。小さいガキは適当にかまってやれば勝手に喜ぶし、そこそこ大きいヤツには勉強を教えてやれば感謝された。
ただ、やっぱりここにも常識とかルールってのはあって。
あまりそれを考えずに子供を構っていると口煩いおばさん職員のヒステリックなお説教が始まるのだった。
「柊くん!ダメでしょう!子供にそんな危ない事教えちゃあ!」
「…木登りくらいいいじゃねーかよ、うっさいオバサンだな。」
「今なんか言った!?」
「別にー。」
…思い出した。そう言えばこのオバサン、俺がガキの時もギャンギャン怒ってたわ。すげーな。何年怒ってるんだよ。
でもまぁ。
常に口煩いおばさん…矢口さんを煩わしく思いながらも、裏表のないこの人を俺はあまり嫌いじゃなかった。