愛を知る日まで




それにしても。


初めての独り暮らしと云うのはなんて快適なのだろうと、俺は施設を出てアパートに引っ越してから日々感じていた。


生まれてからずっと他人との集団生活を余儀なくされていた俺は独り暮らしの自由さを噛み締めていた。


飯も好きな時に好きな物が喰えるし、テレビだっていつだって自由に視られる。風呂だっていつでも入っていいんだ。門限も掃除当番もなけりゃエロい本やDVDも出しっぱなしでいいなんて凄く気楽だ。


バイトとボランティア以外、特に行く所も無い俺は大抵をこの自由な空間で過ごした。とは言っても、大抵はテレビ見てゲームしてエロDVD見るぐらいなんだけど。


結局一週間も経たない内に退屈を感じるようになって、特に行く所も無い俺はぬくもり園でガキを構う時間が増えていった。



独り暮らしを始めてから、飯を作ることも覚えるようになった。


最初はコンビニ飯で済ませていたが、不経済な事とすぐ飽きたのもあって仕方なく自炊に挑戦する事にした。一応学校で調理実習の経験はあるから基礎ぐらいは分かる。


それでもレパートリーはせいぜいカレーや炒飯ぐらいで、毎日飯を作ることは面倒だと知った。

ちなみに、独り暮らしの定番と言われるインスタントラーメン。俺あれキライ。喰えなくは無いけどなんか飯って感じがしないんだよな。

その代わりスパゲッティは大好きだけど。安いし簡単だし何より旨いしでよくお世話になったっけ。特にナポリタンとミートソースが好きだ。俺、トマト味が好きなんだよな。


少し面倒でわりと退屈で凄く自由で。


そんな18歳の春を、俺は過ごしていた。




ある夜

もうすぐ咲きそうな桜を、アパートの窓からぼんやりと眺めて




「…今年の春は温かいな…。」




宛てどなく、呟いた。










それは、真陽に会う一週間前のこと。







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