恋萌え~クールな彼に愛されて~
第五章 ~謎の女~

勢いで華子のところを出たまではよかったけれど
塚本のマンションの前まで来ると梨花はまた躊躇ってしまった。
この期に及んで往生際が悪いと思いながら、しばらく逡巡した後で
思い切ってオートロックのパネルのボタンを押した。


ほんの少しの間のあとで 
インターフォンの受話器を外す耳障りな音は聞こえたものの
応答する声は聴こえてこなかった。
塚本はインターフォンのカメラに映る自分が見えて
絶句しているのかもしれない。昨夜の事もある。
このまま追い返されるかもしれない、と梨花はにわかに覚悟をきめ
一気に吐き出すように言った。


「えっと… あの、綾瀬です。
荷物は届きましたか?片付けは進んでますか?
お昼にと思って差し入れを持ってきました」


そして……項垂れた。


これじゃまるで忘れないうちに伝言を伝えようと
必死になっている子供みたいだ。
映画に出てくるカッコイイ大人の女性のような
気の利いた言い方ができないものか、と情けなく思った梨花が
回れ右をしてこの場を立ち去りたくなったその時
静かにエントランスのドアが開いた。
インターフォンは相変わらず沈黙したままだ。


これは……入れという事よね?と
誰に問うでもなく一人心の内で小さくごちて
梨花はドアの内へと進んだ。

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