色鉛筆*百合短編集
呑気な虐められっ子



私は同性愛者だ。

異性には、全く興味が持てない。

私の初恋は、当時大人気だったアイドルグループのリーダーの女の子だったっけ。



そんな私の…身近な人物への初恋は、小学5年生のときだった。

あのときはまだ、自分の気持ちが傍から見たら異常であることなんて分からなくて。

普通に、何の躊躇いも無く、私はその友達に告白した。


『何言ってんの、光子。気持ち悪い』


その一言から、私の地獄は始まった。

親友だった彼女が一転、敵となる。

彼女はクラスでは割と目立つ方だったため、周囲を味方に付けて。

私を、徹底的に攻撃して来た。

最早クラス全員が私を標的にして、陰湿なものから大胆なものまで様々な虐めが行われた。



誰かに階段から突き落とされ入院したことをきっかけに、退院しても不登校になりそのまま卒業式にも参加せず卒業。

両親に懇願して、誰も同じ小学校出身の子が居ない私立の中学校に入学した。

それからは、とにかく二度とあんな思いをしてたまるかと……私は自ら孤立した。

誰かと仲良くなったら、諍いがあるかもしれない。

誰かと仲良くなったら、その娘に恋してしまうかもしれない。

……そう考えたら、何も出来なかった。



‐‐――


「岡崎さん……って、もしかして、昔虐められてた?」


そんな私に、ある日突然近付いて来た……高橋莉代(りよ)。

彼女こそが、理由までは知らないけど今のクラスの標的だ。

ダークブラウンで、少しウェーブの掛かったセミロングの髪。

人懐っこい笑顔で、基本物怖じせずに誰にでも話し掛ける友好的な性格。

そう言った……斜めの視点から見れば八方美人なところが、誰かに妬まれたのだろう。多分。


「何なのよ、あの娘…」


久々だった。こんなに感情を露わにしたのは。

勝手に近付いて来て、人の傷を抉ってそれで……笑ってた。

きっと、自分が虐めから逃れるための良いカモでも見付けたと思ってるんだ。


「もう……嫌だ…」


折角、新しい場所でやり直そうと思ったのに。

体の震えが止まらない。

いつ……私が同性愛者だと知られ、また冷たい目で見られることになるだろうか。

その日、私は久しぶりに声を張り上げて泣いた。



‐‐――


あれから1ヶ月。

私は平和な日々を送っていた。

細かいところまでは知らないけどあの娘……高橋莉代が、虐めの主犯と対立して見事に勝利したらしい。


「ねぇねぇ、みっちゃん。今日こそは放課後デートしてもらうんだからね!」

「馬鹿なこと言わないで頂戴。あと、勝手に変なあだ名付けないで」


孤独から抜け出した筈の高橋莉代は、何故か未だに私に寄って来る。

屈託無い笑顔を向けて、それこそ私だけに。


「良いじゃん、私だけ特別ってことでさ!」


牽制するように『特別』と言う言葉を繰り返して、まるで私を独り占めするように。


「…………好きになんか、なってないんだから」

「え、何々みっちゃん。今物凄く聞き捨てならない台詞が聞こえた気がするんだけど!?」

「確実に貴方の空耳よ、気にしないで」


お互いに、顔を真っ赤にして。

まだまだ怖くて、踏み出せない一歩だけど。

いつかはもしかしたら……莉代の手を取って、私は幸せに浸るのかもしれない。



END..
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