ALONES





「―アルヴァスティン!」





何故と、何度も繰り返した。

母は彼――兄が孤島へ行った時から、段々と部屋に籠るようになった。


始めは覚えていた。

でも徐々に分からなくなって、頭を抱えるようになった。


終いには己の記憶から父を消し去り、俺と言う存在の代わりに、兄と言う空想をはめ込むようになった。


母にとっては俺がアルヴァスティンであり…俺は生まれてなどいない。



「母上…俺はアルヴァスティンじゃないよ。」



「何を言うの、あなたはアルヴァスティン。大事な私の子よ。」



何故と、何度も繰り返した。

それでもここにきてしまう。


今母が分かるのは、兄と、ヨアだけだ。


それでも俺は、優しく頬を撫でてくれる母に縋ってしまう。





どうして――こんな事に。


細く白い手を握り返しながら、息を吐いた、直後。




「殿下!」


< 161 / 185 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop