ALONES
――――パンッ。
乾いた音が響いて、じわりと痛み始める左頬。
一瞬、何が起きたのか分からなかった。
乱れた髪を直す事も、痛む左頬を抑える事も無く…身も心もびしょ濡れの僕は、ただ彼女に視線を戻し、見つめる事しかできなくて。
知らぬ間に彼女の両足は、魚の尾鰭のように変化していた。
床が濡れているせいか、濡れた僕に触れたせいなのか。
どちらにせよその姿はいつか彼女と出会った頃を思い起こさせた。
しかし、悲しい事にあの時とは違う。
…彼女は息を荒く吐き、充血した碧い瞳で僕を睨んでいる。
震える心、動揺を隠せない表情。
「キー、ラ、」
絞り出すようにその名を呼べば、
愛しき人魚は何度も、何度も僕の胸板を叩き、「馬鹿!」と叫んだ。
キーラは怒っていた。
すぐにでも噛みついてきそうな勢いで、彼女は怒っていた。