『無明の果て』
重い扉が開くにつれて、讃美歌の歌声も大きく広がって来た。



「麗ちゃん、行くよ。」


「うん。」


足元から祭壇に延びた真っ白なバージンロード。


正面で微笑んでいる岩沢神父が、左手を差し出しうなづいている。


誰もいないはずの扉の向こうから、私の方へ歩みより 一行に向かって


「代わってくれ。」


その人はそう言った。

あまりの驚きに、動けない私の耳元に、


「お返し」


そう言って、一行は優しく私の手を離し、その手を父の腕に導いた。



せっかくのお化粧が台無し。



「ちょっと通りかかったから。」


そのわりには しっかりタキシードなんか着ているくせに。



「私の夢を奪わないでくれ。

四十年待ったんだ。

麗子、お誕生日おめでとう。」



「お父さん、結婚おめでとうでしょ。」


泣きながらやっと言ったのに



「誕生日が先だ。」


おかしくて、嬉しくて、泣けてくるじゃないの。


そして、そこには、母と一行の両親、正幸さんと奥さん、後輩の娘達、専務までがいた。


みんな 通りかかったからなんて そんな事言うつもりなの。



涙の向こうに見えている一行のもとへ、一歩一歩進む。



讃美歌は園の声に似て。


ステンドグラスは涼の瞳に似て…



「結婚おめでとう」


父の腕から一行の腕に帰る時、泣きながら父は言った。

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