『無明の果て』
「岩沢さん。

私、あと一月後に四十の誕生日なんです。


その日に夫と二人で式を挙げる事にしています。」



「おぉ。
そうでしたか。

それは楽しみですね。
おめでとうございます。

私が教会に身を寄せる時に挙式される、私達は不思議な縁があるのかもしれないですね。」



「あの…

私達の式の、その神父様は岩沢さんにお願い出来ないでしょうか。」


「また、急に何を云うのかと思えば、とんでもないことを…」



その言葉をさえぎるように、私は言った。



「何をするにしても、はじめはどんな事でも、どんな人でも素人ですよね。


私が日本でキャリアウーマンなんて呼ばれていても、ここで一から身に付けた経験は、そんな実績など跳ね返して、別のやり方、考え方、立ち上がり方までが何通りもあると云う事を、私に教えてくれました。


先ほど読ませて頂いた手紙は、私へのメッセージでもあったように思いました。



岩沢さんの祝福で、私達の最良の日を迎えさせては頂けないでしょうか。」


「鈴木さん、ありがとう。

そう言って頂く事が、私へのうれしい祝福です。


でも今の私には、そんな人格も力も、そして資格さえもないですよ。」



私は、予定していた挙式をキャンセルすること。


そして直接教会に出向き、神父様とお話をし、私の気持ちを聞いて頂く事を岩沢に伝え、返事を待った。




そして後日、岩沢からメールが届いた。




「心の中に目と耳を開く事。


一月後、そんな気持ちでお会い出来ると思っています。


私で良ければ、喜んで挙式のお手伝いをさせて頂きます。


岩沢 輝」

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