『無明の果て』
それが一行のためになるのかはまだ分からないんだけど。」



「涼は本気だったんだ。
麗ちゃんだって気付いてたでしょ。
俺も知ってたけどね。
本当は送別会の時、俺も涼に言われたんだ。
おまえで良かったよって。
がんばれよって。」



いつの間にか、青年達はしっかりと羽ばたいていた。



その日は朝から挨拶を兼ねて、得意先を回った。


私が退職する事を知ると、有難いことに、一緒にやらないかとお誘いを受けたり、会社が始まったら、お手伝いしますよとまで言って頂く事もあった。



今まで私がしてきた事は、ちゃんとしっかり伝わっていた。




「先輩、専務が探してましたよ。」


なんだろう。
今更、引き止めるわけもないだろうが。




「何か、ありましたか?」



「おぉ、会社はいつ頃始めるんだ?」



「まだ何も。
すべてこれからです。」



「そうか。
急なんだが、アメリカに行ってみないか。」


「えっ、アメリカって、特修のことですか?」


「君には長い間頑張ってもらったからなぁ。
二、三年経験を積んで、それからでも遅くないんじゃないか。

経費は会社から出すようにする。」



特修とは、アメリカの親会社に派遣される、言わばエリートへの招待みたいなものだ。



三十を越えようとする時、希望を出してみたが通らなかった 特別修学の事である。




「会社を辞める人間より、適任者がいるかと思いますが。」



「いや、君が適任者だよ。

考えてみてもいいんじゃないか。」



一行、今頃になって気付かされること。



たくさんの人に守られているということ。

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