『無明の果て』
「新幹線ももう無理だよね。

飛ぶかもしれないって言うから、待ってるんだけど、間に合ってもギリギリだと思うんだ。

会社の人達の見送りも断ったのに、麗ちゃん、ごめん。

駄目な夫だね。」



「ううん、一行のせいじゃないもの。

大丈夫よ。

諦めないから。
ギリギリまで待ってるわ。

また電話入れて。」



これも運命なの?



ひとりで決めた通り、ひとりで頑張ってみるんだと、運命の道筋はもうすでに私を試しているの?



一行の姿を見ないまま、ここからアメリカへ旅立つなら、はぐくんでもらった愛情を、暖かい手の温もりをどうやって確かめたらいいの…


ただ、ただ、電話を待っている。



「麗ちゃん、これから飛行機出るって。

ギリギリまで待ってて。

絶対行くから。」



「待ってる」


お願い。

私の時間を少しだけ止めて。



だけど非情にも、アナウンスは私を出発ゲートへと誘う。


一行に電話を入れたけれど、もう今は繋がることはない。





麗子 背筋を伸ばしなさい。


泣かずに歩くのよ。



私の靴音が心臓まで響き、それに合わせて呼吸をしなければ、その場に倒れそうである。


そしてもうひとつの靴音が、後ろから確実に大きくなっているのを感じていた。



私を見送るただひとりのその人の前で、私は涙を流した。



涼 動かないでって、祈っていたのに。
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