『無明の果て』
北原 園という女性をかつて愛した男が、その人を改めて眩しいと感じた瞬間である。



「涼はね、囲碁のプロ棋士になるって。

院生だった時にプロ試験に落ちて諦めたけど、アマチュアでも大会の上位なら試験でなれる可能性があるんだって。

たったの数名らしいけど、夢だからって言ってた。

賭けてみるって。

思い出したって。

やらなくちゃいけない事に気付かされたって。


ただ三十歳までらしくて、今までの暮らしは捨てないといけないって言ってた。


そんな話し聞いてたら、私も決心がついたのよ。


一行と何があったのかは聞かないわ。


だけど涼からひとつだけ伝言頼まれてるのよ。

もし連絡があったら、
”おめでとう“

って、それだけ伝えてくれって。


涼の事はほっといてあげれば?」



「無明」


という言葉がある。

真理に暗い、心を開けていない事を意味するという。


涼は今あえてそんな道を選んでいるのだろうか。

いや、それとは真逆の開けた道を、信念と共に歩き出したのだ。


空港で麗子に別れを告げたのではなく、昨日までの自分に決別したのだ。



必ずいつか、笑って肩を並べる時が来る。


その時は涼に

「おめでとう」

と言う日になるように。




「一行、私はおめでとうなんて言わないからね。

ねぇあのさ、私に電話は、するべきじゃないと思う。
違うと思うわ。

心配しなくても大丈夫よ。
涼は素敵だったんだから。」






麗子 胸が痛いんだ。


どうしたらいいのか、わからないんだ。
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