ピエロ-私と中年男の記録-
苛立ち
家に帰ると母は夕食の支度をしていた。

「今日は何処に行ったん。」

味見をしながら母は聞いた。

「多分やけど、奥さんとこ。」

母はガスを止めてこちらを見た。

「えっ、姉ちゃん何言よん。」

手を洗い終えた妹がびっくりして言った。

「小指のおっちゃんが、そう言うたん??」

母が妹にタオルを渡しながら聞いた。

「違うよ。多分って言うたで。そう思っただけ。」

私は冷たく言った。

母にイライラしているのか分からない。




そもそも、あの人の何処に魅力があるん。
何であの人と仲が良いん。



「ほな、多分やけど、姉ちゃん正解じゃわ。今日、会いに行ったんじゃわ。」

「えー、小指のおっちゃん、結婚しとん。」

妹は、私と母の顔を交互に見ながら聞いている。

「ご飯できるまでテレビ見より。美味しい肉じゃがやけん。」

母が言うと妹は機嫌よくリビングへ行った。

「小指のおっちゃん、なかなか奥さんに会えんのやって。」

そう言って、また母はガスに火をつけた。

「ふーん。自分が悪いけんだろ。」

私は手を洗いに、そこを離れた。

母のびっくりした顔が一瞬見えた。


私は手をいつもより長く洗った。



……気持ち悪い。


鏡に映る私は、あの目のまま。
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