みじかいおはなし
それでも確かに、
私はこの人に愛されていたんだ。
自分の好きな人に、自分を好きでいてもらう。
そんな奇跡のような時間があったんだ。
彼の力強い表情を見ると、
そう思えた。
「よかった、安心した」
そう言って彼に笑いかけると、
彼はまた眉を下げて子犬のような顔になった。
それは紛れもなく、私の大好きな彼だった。
強がりで、でもへたれで、私を支えてくれていた彼だった。
「送ろうか?」
一通り泣いたあと、私は彼の車から降りる。
「ううん、大丈夫。近いから」
「そう?」
「うん。家まで送ってもらっちゃったら、降りるの嫌になっちゃいそうだし」
茶化して言うと、彼はまた眉を下げる。
私はそれを見て少しだけ笑った。