みじかいおはなし

「…ねえ、一個聞いてもいい?」

私の問いかけに、彼は今日はじめて私をちらりと見た。
その目は微かに潤んでいて、今まで私を見なかったんじゃなくて、見られなかったんだなあと思った。

彼は、強がっている癖に、へたれなところがある。


「うん、なに?」

彼がまた、ちらりと私を見る。
眉が下がって、子犬のような顔になる。


「…気持ちがなくなる前は、私のこと、本当に…」


本当に好きだった?

そう聞きたいのに、喉から声が出ない。
彼の子犬のような顔も見ていられなくて、私は俯く。


「好きだったよ」


突然降ってきた彼の声に、私は顔を上げる。
そこにはしっかりと意思を持った彼が、まっすぐに私の目を見ていた。


「ちゃんと、好きだったよ」


力強く言われたとたん、
今まで出てこなかった涙が一気に溢れてきた。


私は彼を見ていられず、また俯いて顔を覆う。
拭っても拭っても、涙が止まらない。

「好きだった」なんて言われたくなかった。
だって、私はまだ「好き」なんだから。


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