わらって、すきっていって。

彼女に話しかけていたのは大学生くらいのお兄さんだった。ミヨちゃんににらまれると、彼は毒を吐いて舌打ちをして、がに股でそこを去った。

見るところ、どうやら彼女はいま、車椅子が道沿いの花壇の溝にはまってしまい、身動きが取れなくなっているらしい。

そしてたぶん、あのお兄さんはそれを助けようとしていたんだと思う。


「ミヨちゃん。大丈夫?」


思わず駆け寄っていた。声をかけると、彼女はまたあの不機嫌そうな顔でわたしを見上げたけれど、すぐにそれは信じられないほどかわいい笑顔に変わった。


「小町ちゃん!」

「あの……」

「ごめーん。ちょっと手伝ってくれないかな?」

「えっ」

「ほら見て、ここ、右の車輪が挟まっちゃってー」


そう言われても。いままで車椅子なんて触ったことがなかったから、いったいなにをどうしたらいいのか分からない。

車輪を見ながらあたふたするだけのわたしに、ミヨちゃんはまた楽しそうに笑った。その額にはうっすら汗が光っていた。


「ごめんね、車輪、足で蹴りあげてくれたらいいからー」

「蹴……!?」

「たぶん手だと重くて持ちあがらないと思うよー。おもいきり蹴っちゃってー!」


これ持っとくから、と、彼女はわたしの腕からドーナツの袋を取り上げる。

いいのかな……と思いつつ、足の甲に大きな車輪を乗せて、そのまま持ち上げた。瞬間、車椅子ががくんと傾いたので、取っ手の部分をぎゅっと握りしめる。

よかった、倒れなくて。びっくりした。
< 109 / 197 >

この作品をシェア

pagetop