わらって、すきっていって。
彼女に話しかけていたのは大学生くらいのお兄さんだった。ミヨちゃんににらまれると、彼は毒を吐いて舌打ちをして、がに股でそこを去った。
見るところ、どうやら彼女はいま、車椅子が道沿いの花壇の溝にはまってしまい、身動きが取れなくなっているらしい。
そしてたぶん、あのお兄さんはそれを助けようとしていたんだと思う。
「ミヨちゃん。大丈夫?」
思わず駆け寄っていた。声をかけると、彼女はまたあの不機嫌そうな顔でわたしを見上げたけれど、すぐにそれは信じられないほどかわいい笑顔に変わった。
「小町ちゃん!」
「あの……」
「ごめーん。ちょっと手伝ってくれないかな?」
「えっ」
「ほら見て、ここ、右の車輪が挟まっちゃってー」
そう言われても。いままで車椅子なんて触ったことがなかったから、いったいなにをどうしたらいいのか分からない。
車輪を見ながらあたふたするだけのわたしに、ミヨちゃんはまた楽しそうに笑った。その額にはうっすら汗が光っていた。
「ごめんね、車輪、足で蹴りあげてくれたらいいからー」
「蹴……!?」
「たぶん手だと重くて持ちあがらないと思うよー。おもいきり蹴っちゃってー!」
これ持っとくから、と、彼女はわたしの腕からドーナツの袋を取り上げる。
いいのかな……と思いつつ、足の甲に大きな車輪を乗せて、そのまま持ち上げた。瞬間、車椅子ががくんと傾いたので、取っ手の部分をぎゅっと握りしめる。
よかった、倒れなくて。びっくりした。