わらって、すきっていって。


「――なに甘ったれたこと言ってんの」


えっちゃんがいつもより半音低い声を出した。


「ぐいぐいいかないと! せっかく連絡先も交換したんだから!」

「い、いや無理……」

「ハイなんにもしてないうちから無理とか言わない!」


京都に向かうバスのなか。彼女は食べていたポッキーをビシッとわたしに向けて、「返事は?」と鋭い目をした。


この時期、うちの学校は全学年が遠足に行く。3年生は京都と決まっている。

京都には生まれてこのかた一度も行ったことがないから、えっちゃんとグルメ本を買いこんで、食い倒れ計画はもうばっちりだ。


「こういう特別な日はチャンスだよ?」

「チャ……?」

「みーんな浮かれてるし、せっかく髪もゆるく巻いてかわいくしてきたんだし、こういうときこそ積極的にアピールしていかなきゃ!」

「アピ……?」

「本城も男なんだから、やることやってりゃ絶対に落ちる」


落ちるって。なんだかすごく下心のある表現だなあ。わたしはこうやって片想いしているだけで精いっぱいなんだけどな。

それに、えっちゃんはたぶん、9割は面白がって言っている。


「さっき野間と守田にどこ行くか聞いといたし、きょうはあたしに任せて」

「えっ!?」


いつの間に。


「だって、これが人生最後の遠足だよ? 最高の思い出にしたくない?」


彼女の行動力は侮れない。それなのに、自分のことになると「面倒くさい」で片付けちゃうんだもん。自分の恋愛にその力を注いでほしいよ。
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