鍵
また誰かを抱いているんだろうか?
そんな風に思いながら彼を待つ苦しい時間が楽しみになって来たのは、三か月前から。
決まって木曜の4時、いつもの窓際の席で本を開く見知らぬ男性に目を奪われるようになってから。
整ったとても綺麗な横顔で、淡々とした表情でページをめくる。
長い指に、少し冷たくも思えるその眼差し。
斜向かいに座って気付かれぬように彼を眺めながら、ドキドキと胸を高鳴らせ、勝手な彼の背景を妄想する。
彼もきっと大学生。
ううん、院生かな?
絶対に理系専攻。
だけど本は好きな文学青年。
学校でも注目されているけど、近寄りがたいオーラで大っぴらにモテているわけではなさそう。
彼女は……いるのかな?
きっといるよね、こんなに素敵なんだから。
チラチラと彼を眺めながら、ドキドキと鼓動が五月蠅い。