鍵
顔を上げた瞬間、彼と目が合った。
しまった。
慌てて目を伏せると彼はガタッと音を立てて席を立ち、スタスタと歩き出した。
しまった、気持ち悪いと思わせてしまったかもしれない。
その時、
「この本、お勧めですよ」
と背後から一冊の本を置いて、そのまま背を向け歩き去って行った。
思いもしないことに呆然としながら、その本に目を落とすと彼の私物らしい栞が挟んでいた。
『君に会える木曜の夕方が最近の楽しみです』
バクンと鼓動が跳ね上がる。
彼の残した本。
それは新たな扉を開く鍵だった。

