リアル

ノンフィクション

 ずっと動いていたおじちゃんの口が止まった。
 おじちゃんは一度、俺の方を見てからサトシの腕をギュッと掴むと椅子から腰を上げた。そして、サトシの腕の感触を握りしめるように、手を開いたり閉じたりしながら、病室から出てきた。
「ヒロ、毎日ありがとな」
 今できるであろう最大限の笑顔でおじちゃんが俺に言う。
「おばちゃんは?」
「家におるよ。ちょっと疲れが出てきたみたいやけ」
 長椅子に座りながら小さく呟いた。
「ヒロ、ちょっとこっちき」
 俺の方を見ずに、手招きをする。
 言葉にできないような、嫌な予感が背中を抜けた。
「・・・何?」
 顔がひきつるのがわかる。ゆっくりと近付き、おじちゃんの隣に腰掛けた。
「あんな、・・・サトシな・・・」
「サトシが?」
「うん、サトシがな・・・」
「何したん?」
 言い出しにくいことを言おうとしている、もどかしい感じ。
 聞きたくないけど、知りたい・・・。交錯する想いに心臓がキリキリした。
「もう、ダメなんて・・・」





 
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