ビターチョコレートに口づけを
ね、と笑うと、困ったように此方を横目で睨む。
「つってもなぁ…
お前、怪我したの親指だけじゃねぇだろ。」
「え、えへ…?」
誤魔化すようにそう笑った時、やっと玄関に辿り着いた。
玄関までが遠い訳じゃなくて、ゆっくりと歩いたため。
そして隣を歩いていた兄が、ひょいと扉の前に立って鍵とチェーンを外す。
「おはよう。」
その瞬間、聞こえて来たのは、爽やかという字がぴったりの声。
「おはよういっくん。」
「はいはい、おはよう。」
それに二人で返して、にこりと笑った。
あ、兄ちゃんは相変わらず、にこりともせず、だるそうにしてたけど。
……我が兄ながら、ほんとに愛想というやつが欠落している。
「慎司。
ゆうからもう聞いた?
それとも説明必要?」
首を傾げるいっくんに、欠伸をしながら、いらねぇ、と答えた。