ビターチョコレートに口づけを
ああ、だめ。
咄嗟にそう思ってしまった。
お願い。
神様。お願いだから。
彼にこの姿を見せないであげて。
彼は今、とても強がっているけど、とてもとても、雪のこと、愛してるんです。
だって、私、知ってるの。
いっくんが、雪の話をするときに、幸せそうな顔をすることも、少し切ない顔をすることも。
何より、どうしようもなく、愛しい、とその目が語ってた。
だから、…………お願い。
泣きそうになったけれど、それを堪えて、辺りを見回すと、今度はすぐに見つかった。
良かった、と言いそうになるが、彼の視線を追って口に出すのをやめた。
その代わり、彼に気づかれないよう、ゆっくりと近付いて行く。
近付く度に、彼の表情がはっきりとしてきて、どうしようもなく、泣きたくなった。
それでも逃げ出さずに近付いて、背後に回って。
「いっくん!!!」
真後ろで叫んでやった。
案の定驚いたいっくんは、うわっ!!と、大きな悲鳴を上げた。
「うへへー、行ってきたよー。」
にやにや笑いながらそういうと、もー、と頭をわしゃわしゃされた。
待って、何これ。
なんかデジャブ。
「女の子がうへへなんて笑っちゃだめだよ。わかった?」
「はいはい、わかったわかった。」