恋
「……夏木くん?」
「え? ……あ、ども」
夏木くんは驚いたように顔をあげ、私の顔を確認するとすぐ顔を伏せた。
彼は浩介くんの親友だ。
私と一緒にいるとき以外は常に彼といるんじゃないかと思うほど仲がいい。
一度紹介してもらって、彼の親友なんだから私も仲良くしようと頑張ってみているのだけど、夏木くんにはその気はなさそうだ。
いつもそっけない態度で逃げて行ってしまう。
「今、浩介くんも来てるの。ねぇ、一緒に勉強しない?」
私の言葉にぎょっとしたような顔をする。
「いや、いいよ。邪魔だろ?」
「邪魔なんかじゃないよ。ねぇ。何読んでるの?」
ここは古典文学の書架だ。
文学部である私は馴染みある場所だけれど、浩介くんと同じ理学部の彼にはあまり関係がないはずなのに。
実は読書好きだったりするのかしら。