ドメスティック・エマージェンシー
全身の呼吸が乱れていた。
ありとあらゆる穴から呼吸し、水滴を吹き出す。

気付いたら私は自室にいた。

――殺せなかった。

振り下ろそうとした刹那、父親の死体が脳裏に浮かんだ。
あまりに衝撃的だった。
そこら中に喰われたような穴を開け、内蔵がドロリと飛び出し、鼻や口から血を流している父親。

布団を刺したときに連想した父親が恐くなった。

本当に、私はそこまでやりかねない。
一回刺せたらそれでいいなんて思えるだろうか。
歯止めが利かない気がする。

まるで薬物のように、セックスのように。
中毒になりかねない。

それが怖かった。
異常者は、異常になることを恐れたのだ。






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