ドメスティック・エマージェンシー
「江里子?!」


肩を揺さぶられ、夢の中から現実へ呼び戻された。
辺りはすっかり暗くなっていた。
朧げな視界をジッと見つめ、ようやく言葉を発した。


「……葵?」


輪郭がはっきりして名前を呼べば、孤独感は風に浚われて消えた。


葵だ。
葵の首に腕を回して体温を感じてみる。
ラベンダーの香りがして、震えていた心が安定していくのを感じ取った。
ツンツンした髪をソッと撫でた。


「どうした?……もしかして、ずっとここに?」


髪を弄びながら黙って頷く。
葵の声が私の全細胞に滲む。
体温が上昇していくのを自覚した。


「寒かっただろ?中に入ろう」


私を立たせ、手を繋いで葵は中に入れてくれた。
見慣れた玄関、クールで、シック。
葵の匂いがする。
そういえば、ラベンダーは緊張などをほぐす効果がある、と葵が言っていたのを思い出した。







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