ドメスティック・エマージェンシー
第三章
私の体は動いている。
心はこんなにも重く、座り込んでしまっているのに体はまだ言うことを聞く。

「お母さん、お弁当……」

「ん」

母の拳から出てきたのは五百円玉だった。
どうやら今日もお弁当はないらしい。
昨日もなかった。

小さく、行ってきます、と呟きドアを開けた。
太陽の光が私に反乱を起こす。

どうにか外へ出て、家を見返す。
素っ気ない家は、私にかける言葉もないようだ。


有馬が学校を休む時、私にもお弁当はない。
お金を渡すのも嫌なのか一度「バイトしたら」と言われてしまった。

今探してるとこだ。

あの家では有馬が優遇なのだ。
何もない、平凡な私は、ならばあの人たちにはどんな存在なのだろう。

「三百五十六円になります」

店員さんの手に五百円を置き、引き換えにおにぎり二つと水が入った袋を手渡された。
お釣りを貰い、コンビニを後にする。

決心して家を出てきたのに、今更になって決心が駄々をこね始めた。

行きたくない。

『卑怯者っ』

言葉が蘇り、頭を抱える。
実際には心を抱えた。





< 17 / 212 >

この作品をシェア

pagetop