まほろば【現代編】
それでも瞳に普段の凛とした強さは見られない。

伏目がちの瞳は、地面を見続けこちらを見ようともしていない。

「真人君は、たぶん自分が一番落ち着ける場所にいるはずよ」

ポツンと紗綾さんの呟きが漏れた。

何かを諦めたような、それでも何かに縋るような気持ちがその声に込められているように感じた。

いったい紗綾さんは今何を思っているのだろうか? 

紗綾さんを一人にしてはいけない気がする。

だけど、それと同じくらい真人君も一人にしてはいけないという思いも湧き上がる。

あまり迷っている暇はない。決断をしなければ。

「ありがとうございます!」

断腸の思いで頭を下げて走り出そうとする私の背中に、再び紗綾さんの呟くような声が風に乗って聞こえた。

「リュウ君のことは諦めて。じゃないと、私――」

最後はなんていったのか聞こえたなかった。

でも、今はとにかく真人君を探すことが先決だ。紗綾さんとは戻ってきてからまた話し合おう。

チラリと背後を見やると、地面に座り込んでいる紗綾さんの姿が見えた。

胸が締め付けられる思いだったが、それを振り切るように一度強く頭を振って前に視線を戻した。
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