For 10 years
病院に着いて、夜間受付で優太くんがいる場所を聞く。


絢華ちゃんには、何を言っても頷くだけで、俺のあとを無言でついてきた。



ひんやりとした空気……


シーンと静まり返った廊下……


今絢華ちゃんは何を思いながら、この廊下を歩いているんだろう。


半分くらい歩いたところで、突然足を止めた絢華ちゃん。



「絢華ちゃん?」


「どこ、……行く、の?」


「こっちにいるって」


「誰、が?」


「……優太くん」


「いないよ、……優太は……こんなとこに、いないもん」



絢華ちゃんは涙を流しながら、この現実を受け入れたくないと、否定する。



「今頃、家に帰ってるかもしれない。あたし、帰らなきゃ……」



そう言って、蒼太くんの手をぎゅっと握り直して、180度方向転換した。
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