白い吐息

「東京か。帰省?」
「はい。でも、先輩なんで……」
「見覚えのある子がいるなと思って近づいてみたら千恵だった。凄い、変わってない」

 変わってないと言われて、嬉しいような嬉しくないような、複雑な気持ちになる。
 そのとき携帯が鳴った。きっと晃からの返信だ。

「いいの?」

 携帯を見ようとしない私に、先輩が不思議そうに首をかしげた。

「多分迷惑メールです」
「そっか」
「先輩も、戻らなくていいんですか?」

 遠くではトレーニング中なのか若い掛け声が聞こえてくる。そちらを一瞥した先輩は肩をすくめた。

「俺がいても邪魔なだけなんだ」

 顧問を邪険にしていた当時を思い出して私は思わず笑ってしまう。すると先輩が私を見た。

「先輩?」
「変わってないって言ったけど、嘘」

 先輩の真剣な眼差しに私の胸が高鳴る。

「綺麗になった」

 私の髪に先輩がそっと触れる。

「え、えっと……」
「連絡先、教えてもらっていい?」

 先輩の妖しげな笑みに、私はすでに捕えられていた。
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