若き店主と囚われの薔薇
「途中で、寝てしまって。その…重かったでしょう、テントまで」
「…気にするな。問題なかった」
エルガも、いつも通りだ。
昨日、あんなに取り乱したというのに。
彼は、全く私を責めなかった。
テントを次の街へ移動させるため、皆で準備をする。
その間、もう一度考えた。
私は昨日、生きる意味を失った。
愛していたひとに、その手を離されて。
死のうかとも思った。
これからただ目的もなく生きていくなんて、無理だと思ったから。
けれど。
『一度くらい寄り道しても、構わないと思うがな』
昨日の、エルガの言葉を思い出す。
私の前を歩く彼らを見て、ぼんやりと思った。
…私はこのまま、ここで過ごすのだろうか。
クエイト以外の、主人を求めて?
違う、と思った。
私が求めているのは、新たな主人ではない。
クエイトに愛され生まれた『ロジンカ』以外に、私はなれないのだ。