ラスト・ラブ
あの頃よりは大人になった今の私なら、目の前にいる彼とうまくつきあえたんだろうか。
大学進学で上京していった彼を信じて待つことは、できたんだろうか。
「ね、キスしていい?」
返事するよりも前に唇が触れあっていた。
この感触も懐かしい。
懐かしいのに。
「……ごめん」
唇が離れた隙に、遮るようにうつむく。
これ以上、彼と唇を重ねてはいけないから。
「私、結婚するの」
「知ってるよ。指輪、気づいてたから」
「え?」
左手の薬指には、イブに彼からもらったプラチナの指輪が彩る。
結婚してほしい、と真顔でプロポーズされた。
ためらうことなく受け入れた。
だから、ほかの人とキスをしちゃいけなかったのに。
「ごめん」
もう一度、謝罪の言葉を口にする。
「知ったうえで誘って、知ったうえでキスをした。俺は、今でも君が好きだよ」
自然消滅だった。
別れの台詞はどちらも口にしていなかった。
積もった想いは思い出のようにきれいで、だけども消化できずに彼は想い続けてくれていたのに。
「幸せに、なれよ」
涙をこらえて顔を上げると、薄く笑む彼の顔に昔の想いが重なった。
【完】