たっぷりのカフェラテをあなたと
 この日は午後から婦人科の診察日。

「行ってきます」

 傘を差して、冷たい雨の中に身を溶けさせる。
 外出は億劫だと思っていたけど、一度足を踏み出してみると案外心地いい。
 
 いつも行っている病院が急に休業してしまった為、仕方なく少し大きな病院の婦人科を受診する事にした。
 病院の中はいつも行くクリニックのように居心地のいい雰囲気はなく、総合病院ならではの独特の匂いがした。
 個人病院が少ない地域だから仕方ないんだけど、やっぱり病気で来ている訳じゃない自分としては何となく居心地が悪い。

「木村さん、診察室へどうぞ」

 平日だったせいか、さほど混んでいない病院内に私の名前が響いた。
 言われるまま診察室のドアを開けると、目の前に知った顔の人が微笑んで待っていた。

「……あっ、健吾さん!」

 白衣を着ていてすぐには分からなかったけど、相手は以前姉と交際していた笹島健吾(ささじまけんご)さんだった。
姉の幼馴染で、私の事も中学の頃から知っている。
 そして……姉とは何年か付き合って婚約までしたんだけど。

(小悪魔なお姉ちゃんが健吾さんをどん底に突き落としたのよね……)

 もう二度と会う事は無いと思っていたけど、やはり近隣に住んでいるからこうして偶然会う事もあるんだろう。
 私はちょっと気まずい思いで彼の前に座った。
< 10 / 57 >

この作品をシェア

pagetop