愛罪
「…お兄も、泣いちゃだめ!」
彼女の華奢な肩に埋(うず)まる口許が微かに震えたかと思えば、叱るような瑠海の声が脳に響く。
え、とその言葉の不可解さを声に出そうとした途端。
瑠海の肩越しの世界が歪んでいたことに気がつき、自然と瞬きをした瞬間に彼女の言葉の意味を理解した。
つん、と鼻の奥に微痛が走る。
二度と濡れることはないと思っていた頬が、その一筋によって潤った。
ーー僕は、涙を流した。
愛しい人の目の前で、愛しい人に抱き締められながら、声を殺して静かに泣いた。
「お兄、泣かないで」
「……ん、泣かない」
少ししてから、ふわりと離れた瑠海の温もり。
覗き込むように僕を見た彼女から目をそらして頬を無造作に拭うと、ぱしっとその手首が小さな手に捕まった。
「瑠海が拭く!」
赤い目をしながらもいつものように無邪気な笑顔を浮かべた瑠海に目を奪われる僕の頬に、細い指が滑る。
僕が思うより何倍も成長していた瑠海は、きっと時間が経てばまた泣き出してしまうだろうけれど、今は彼女の笑顔を消さないよう僕は瑠海の優しさを受け止める。
母親に、瑠海の涙だけでなく兄妹仲良くやっている姿を見せれただけでも大きな一歩だ。
けらけらと笑いながら僕の頬を抓ったり引っ張ったりする瑠海をそっと抱きあげ、あえて母親には声をかけずに霊園をあとにした。