愛罪
「おかえり、そら」
チャイムを鳴らしてすぐ顔を見せた祖母は、いつもの笑顔で僕と瑠海を出迎えてくれた。
「瑠海はー?」と拗ねる瑠海に「ごめんごめん」と呟きながら彼女の目線までしゃがみ込む姿は、どこか母親と重なる仕草があった。
「テーブルに桃があるよ」
瑠海の相手をしていた祖母が言うと、瑠海はそそくさと白いサンダルを脱いで廊下を走って行く。
ひらりとシフォンのワンピースを揺らした小さな背中を見送っていると、静かに腰をあげた祖母が口を開いた。
「お疲れ様、お兄ちゃん」
「…そんなのいいよ」
皺の増えた華奢な手がぽんと頭に触れて、僕は視線を落としながら呟く。
それでも手を引っ込めない祖母は、こう続けた。
「そらがたくさん悩んでいたこと、わかっていながら何も言わなかったお婆ちゃんにも責任があるね。そらの想いはきっとお母さんに届いてる。それでもあの子が憎かったら、いくらでも不満をぶつけてやりなさい。あなたはそれをする権利があるぐらい、頑張ったよ」
僕なんかよりもたくさん生きている祖母の言葉には相応の重みがあって、くしゃりと髪を撫でる手に溢れるほどの優しさを感じる。
照れ臭さから落としていた視線をゆっくりとあげると、祖母は薄紅色をした唇で弧を描き、何も言わずに微笑んだ。