拝啓、今ソチラに向かいます
そう言った豊は、フフッと笑う
りょうが彼の姿かたちを見ていると汚れていることが分かる

「ゆたか?」

顔に出来ている傷
ぼろぼろのTシャツにジーンズ

靴も穴が空いている

「ちょっと来て」

りょうは何かを決意したらしく豊の手を引っ張った
豊はそれを拒否をするわけでもなく只黙って引かれて歩き始めた




ブシャーと勢い良く出したシャワーを頭からひっかぶり豊はブハーッと吹き出した
それをドアの向こうから体育座りで聞いたりょうは微笑った

一人暮らしの条件は
絶対に恋人でもない男を入れないことだってりょう自身が言い聞かせていたのだけれども…

何故だか、豊には安心した
あの汚れの無い瞳から何かを感じとった

そういえば、服を洗ってやらねばならないだろう

「落ちるかどーかわかんないけど…」

立ち上がった彼女は、Tシャツを掴む
と、

「ん?……えっ、…」

絶句した
笑顔だった顔が一瞬にして強ばる

そう、Tシャツの下から出てきたのは一丁の拳銃

そっと、手を伸ばすとりょうはドア越しに豊を見た


名一杯にシャワーを浴びた豊がドアを開ける
と、カチャッと音がした

「りょう…」

哀しみ に目を伏せた

自分に向けられているのは拳銃
その引き金を持っているのはりょう

「わっ私を殺す気で近づいたの…?あんな見たから」

震える手
豊は首を横に振った

「皆、そう言った…それを見たら、必ずそう言った」

俺、いつも人に迷惑かけて、こうして世話になる
でも、拳銃見たら皆そうする
だから俺、逃げる

「ゆた…っ」

いつでもそんなもん買えるから

豊は笑った
すると、りょうが、上げていた手を下ろす

「なんでだろーね…」

ポロポロと零れる涙

「あんた アタシ以上に独りじゃない…」





テーブルの上に並べられていく、豊の私物
拳銃、空っぽの財布、そして、最後には黒い缶ケース

「えっ、これだけ?」

りょうは思わず驚き、うなずいた豊を見た
財布に手を伸ばし、空っぽと笑う

「はぁー…」

りょうは感心と呆れと
色々な思いで溜め息を吐いた

「マジでっか」

「マジですよ」

それでもへらへらと笑っている豊
りょうはポカーンとするしかなかった

豊は、ははっと笑うと辺りをキョロキョロと見渡し始める
その子供のような仕草にくすりと笑った

「りょう、りょう…」

今度は名前を呼ばれる

「んー?」

「寒い」

「…!」

またもやにこやかに言われ彼女は呆然とした
今の豊の格好はただ、バスローブを羽織っただけの姿だった

ごめん
と急いで謝り、暖房を焚く
隣に座り、背中をさする

「あったかい…」

「ん…」

ふいに豊の顔を見るりょう
すると、今更ながらに彼の顔の変化に気づいた

「あれ豊、顔の傷…」

指摘をするとへらへら笑っていた顔が強ばった

これはなに?
と視線は黒い缶ケースへと向かった

「りょー…」

柔かな声で呼ばれる
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