拝啓、今ソチラに向かいます
りょうの手からそっと缶ケースを受け取り豊は蓋を開けた

すると、3粒の白い錠剤が入っている

これは…
と驚くと豊は、見ててと言った

錠剤を一粒つまみ口の中へといれる
あっとかえっとか
隣にいるりょうの声が聞こえたが、豊は動じない

目の前に差し出された腕には1つの痣があった

ふいにそれを掌で覆う
サッと撫でると、そこの痣は消えていた

マジックのような、その動きにりょうは絶句する
その顔は、あまりにも見慣れた物でもあった

顔を下に背ける

「ドーピング剤を、強化したものだと…両親が」

ポツリポツリ
と話始める豊

両親は国も認める科学者で、ドーピングの研究をしていたんだ
短期間の効果ではなく、長期の効果を…
その上に、安全で体にも負担の少ない日常の食品等にも使えたらって…

父さんも母さんも、全然寝ないで作ってた

それで、できたのがコレなんだけど…

俺が小学生のころ
ブランコから落っこって熱が出たんだ
その時、母さんが間違って、これを俺に飲ませちゃったらしくて
次の日には怪我が治っていて熱も下がって
脅威的な回復だったんだってさ

それと、…
身体的な能力も…あがっていたらしい…

しかも1つで3日

ドーピングを越えちゃったって
父さんも母さんも大喜びで…

そしたら…
それを知った、俺を追っている奴等が…


そこまで言って豊は言葉を止めた

「…父さんと母さんを…殺したんだ」

「俺は施設に預けられてそんで、復讐を誓った…だから今の俺は殺し屋に雇われてる」

「豊…」

そっと、手が髪を撫でた
豊は、その手を優しく払うとりょうを見上げた

「俺は、こんなやつなんだよ…」

まだ、遅くない
いっそ、出てけと言ってくれ

俺といるとろくなことはない

「りょう、優しい…だから今だって俺に優しく触れた でも、それはいけない 俺はりょうを不幸にする」

ずっと
一人で生きてきた
ずっと誰かを傷つけてきた

豊は、拳をギュッと握る

「こんな風に俺のこと打ち明けたのは、りょうだけだ りょう、優しいから」

「あたし、優しくなんか…」

「ううん、なんとなく分かる、母さんと同じ優しさがりょうにはある」

フニャリと微笑む
りょうは居たたまれなくなったが、豊の背中にまた手を回した

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