拝啓、今ソチラに向かいます
「だから、バイバイ…」

豊はそう言うと、りょうを振り切るように立ち上がる

「これ、ありがとう」

りょうが買ってきてあったスーパーのビニールの中を漁り
服を取り出す

バスローブを脱ぎ、着々と服を来ていく
最後にグレーのパーカーを羽織りチャックを閉めた時、後ろから手を回された

「いかないで…」


「…………」

黙り混むとより一層力が強くなる
回った手にそれを重ね、トントンと叩く

「行かなきゃ…」

「嫌」

「りょう」

「嫌!」

困ったように笑えば、また力が強くなる

「あたしは…っあたしは出ていけなんて言ってない!」

むしろ何故か傍にいてほしい
傍に…いたい

りょうは目を瞑った

「あたしが優しいって言ってるじゃない、だったら最後まで優しさを貫きたい、それに、迷惑をかけたくないなら、ここにいて」

「でも…っ」

「大丈夫!大丈夫だから…ねっ?一緒にいよう?」

豊は瞳を閉じた
頭のなかにはりょうの言葉が繰り返される

何度も
何度も

そして
「一緒にいよう」

その声が自分の物になった

咄嗟にりょうを振り払い銃を抜く
バァンッという音の後りょうが崩れるように座り込む

後ろを振り返ると、血の海がひろがっていた

「……っ」

倒れている男の手にはナイフ
目の前を向くと、銃を持っている豊

そこから自分達は襲われそうになっていたんだと気付いた

「ゆたかっ……」

手を伸ばす

その手はそっと握られた
それから、引っ張られる

りょうは引かれるがままに豊についていく

二人はそのまま外へと飛び出した
外に出ると豊は一度だけ彼女を振り返る
そんな彼に力強く頷く
途端に再び引かれる腕

走り出した二人の顔は決意に満ちていた
りょうは自分を引いてくれている豊の背中に微笑んだ

「豊っ……アタシを連れてって」





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