M i s t y
私はまたメガネを掛けていた。
元の世界に帰る道のりを、来たときと同じように、面白くもない
馬鹿げた映像を観ながら……
雄也の運転する車が、どこの道を通ったか想像しないように、
頭で無意識に地図を描かないように、耳から聞こえる映画の中身のない
会話に集中した。
車が止まり、雄也が私のシートベルトをはずす。
「メガネ はずしてもいい?」
「まだだ そのまま車から降りろ 車が走り出したらはずしてくれ」
「わかった……私達……また会えるの?」
「おまえなぁ 自分の身分を忘れたのか?」
「ふふっ ホント 今まで忘れてた」
人気のない歩道を選び私を降ろすと、雄也を乗せた車は走り出した。
次の再会はいつだろう。
半年先だろうか、いや一ヶ月先かもしれない。
今しがた、目隠しをした私に刻印のようなキスを残し、
別れの言葉も告げず去った男の顔を思い出しながら、
コーラで使い物にならなくなった携帯を握り締め、
夕暮れの街を歩き出した。