Sales Contract


時計を見ると、もうすぐ8時になろうとしていた。


「あ、そろそろ帰らなきゃ」


そうあたしが言うと、


「送りますよ」


渡辺君は速やかに立ち上がり、あたしの鞄を持って玄関に行ってしまった。


「ありがとう」


今日くらいは甘えてもいいだろう。
あたしも彼を追って、外へ出た。


「あとこれ…」


そう言って渡されたのは、

「ノート?」


「忘れ物ですよ」


あ、そうだった…


「本当に忘れてたのね」


「嘘はつきませんから」


ノートを開いてみると雑な字で書かれた数式が並んでいた。


「彼、頑張ってるんだ」


「あいつは努力家ですから」


努力家か…あたしとは正反対だ。


ノートを鞄へしまい、駅へと歩きだした。


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