妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
 屋敷とはいえ、そんな広いわけでもない。
 その昔に打ち棄てられた貴族の館なのかもしれないので、それなりに造りは立派だが、それでも左大臣家の対の屋一つ分あるかないか。

 あとは屋敷をぐるりと取り巻く簀の子に、小さな土間と厨(くりや)。
 部屋という部屋は、ここしかない。

 ということは、いついかなるときでも、ここに二人でいるということで、そうだとしたら、当然寝るときも・・・・・・と、ここまで考え、ほたるは、びしっと扇を床に叩き付けた。

「あっあの外法師様は、浮かれ女(め)ですのっ?」

 そう叫んで、汚らわしい、と言うように己を抱く。

「そうですわね。外法師などというものは、そういうものですわね。身を売りながら、生活しているのでしょう?」

「・・・・・・何だと?」

「だって、そうでしょう。殿方と何の隔たりもなく、一つ屋根の下で寝起きするなど。大方外法師というのは名のみで、実のところは、誰彼構わず春をひさぐ、浮かれ女でしょう」

 ほたるは、ずいっと身を乗り出す。

「そんな汚らわしい女子、あなた様には相応しくありませぬ。あなた様は地下人なれど、このわたくしの心をも虜にするほどのおかたですよ。あのような下賤な者と暮らしていては、あなた様までもが・・・・・・」

 ここまで言って、はっとほたるは口をつぐんだ。
 そはや丸が、睨んでいる。
 ただ睨んでいるだけだが、そはや丸から発せられる気に、ほたるは青くなった。

 ほたるには何の力もないが、それでもわかるほど、そはや丸の気が昂ぶっている。
 感じたこともないほどの恐怖に、ほたるは背中に冷水を浴びたような心地になった。
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